宇都宮地方裁判所 昭和43年(ワ)166号 判決 1970年5月30日
主文
被告等は各自原告に対し金九万弐千四百弐拾八円及びこれに対する昭和四拾弐年九月拾参日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用はこれを拾分しその四を被告等の負担とし、その余を原告の負担とする。
本判決は原告勝訴の部分に限り原告において、各被告に対し金参万円の担保を供して仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
(原告)
1 被告等は各自原告に対し、金四六万二、〇八四円及びこれに対する昭和四二年九月一三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告等の負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言。
(被告)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
一、原告の主張(請求原因)
1 訴外亡渡辺忠男は、昭和四二年九月一二日普通乗用自動車を運転して茨城県稲敷郡江戸崎町大字佐倉一九七通称佐倉街道上(国道一二五号線)を佐原方面より土浦方面に向けて進行中折から反対方向から進行して来た訴外平山照男の運転する原告所有の大型ダンプ(栃ーせ六七〇六)と正面衝突した。この事故により原告の右大型ダンプが破損し損害を被つた。
2 右衝突事故は右訴外忠男の専らの過失により惹起されたものである。
即ち、右忠男は時速約八〇キロメートルで右衝突現場にさしかかつたが、同所付近は左にカーブしているのであるから、減速して運行の安全を確認しながら進行すべきであるのに、漫然同一速度で進行したため、そのカーブを曲りきれず道路中央より越えて自動車を道路右側部分まで侵入暴走せしめて、折から対面進行して来た被害車両に衝突せしめたものである。
3 原告は右事故により次の損害を蒙つた。
(一) 前記破損した原告所有自動車の修理費として金四三万九、七九〇円
(二) 右自動車修理期間中の代車料金として金二五万六、二〇二円
以上合計金六九万五、九三二円の損害を被つたところ、原告は既に訴外安田火災海上保険より保険金二三万三、八四八円の支払をうけたので、現存する損害額は右差額金四六万二、〇八四円である。
4 被告渡辺健治は前記亡渡辺忠男の父親、同キクは母親であり、右忠男には妻子なく、ために被告らは同人の共同相続人である。
5 よつて原告は被告両名に対して連帯して金四六万二、〇八四円及びこれに対する事故の翌日たる昭和四二年九月一三日から支払済みにいたるまで年五分の割合による損害金の支払をするよう求める。
二、原告の主張に対する被告の答弁及び主張
1 請求原因1の事故発生の事実は認める。請求原因2の事実のうち訴外亡忠男の過失の点は否認する。仮りに訴外忠男が時速八〇キロメートルのまゝ減速徐行せず、道路右側に侵入した過失があるとしても本件事故は訴外忠男だけの過失によつて惹起されたのではない。訴外平山にも過失があつた。即ち、右平山は事故当時原告の被用者であり原告所有の前記大型ダンプを運転し、原告の砂利運搬業のために運転手として稼働し原告の仕事に従事していたものであるが、同人は同ダンプを運転して時速約六〇キロメートルで前記事故現場のカーブにさしかかつたが対向車を発見した際には前方を十分注視し減速して左方により衝突を避ける義務があるのに、これを怠たり、対進中の亡忠男運転の自動車を発見したにもかかわらず、同一速度のまま道路中央部寄りを漫然進行したため本件事故を招来したものである。
2 請求原因3のうち、原告が原告主張のような保険金の支払を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 請求原因4の事実は認める。
4 請求原因5は争う。訴外忠男に賠償責任があるとしても被告らが相続することはない。また、被告らは被害者であるから賠償支払の義務はない。
第三、証拠(略)
理由
請求原因1及び4の事実は当事者間に争いがない。
〔証拠略〕によれば、原告は本件事故によりその所有にかゝる前記大型ダンプを破損しその修理費として金四三万九、七九〇円を要し、更に右修理期間中昭和四二年九月一三日から同年一〇月三日の間訴外篠崎建材の代車を用いたためその料金二五万六、二〇二円(合計二四台分)を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。然しながら、原告が訴外安田火災海上保険株式会社から本件事故による損害につき車両保険の保険金二三万三、八四八円の支払を受けたことは当事者間に争いがないので、原告の現存損害額はその差額金四六万二、一四四円となる。
ところで、〔証拠略〕を総合してみるに、本件現場は千葉県佐原市から埼玉県熊谷市に通じる国道一二五号線上にあり、アスフアルト仮舗装で有効幅員七・二五メートルで歩車道の区別なく、土浦方面から佐原方面に向つて約三〇度の右カーブで、やゝ下り坂になつて見通しは約七〇メートル程度で十分とはいえず、当時降雨のため路面は相当湿潤し、スリツプし易い状態であつたが、訴外忠男は佐原方面から土浦方面に向つて進行中同カーブに差しかゝりながら、徐行もせず、漫然高速度のまゝ運転走行を続けたため、進路左側をカーブに沿つて廻り切れず中央部を越えて右側に侵入暴走する結果となり原告のダンプと正面衝突したことが認められる一方原告の前記ダンプは積載量一〇トンの大型で当時一〇トン余の砂利を満載して道路中央部にやゝ近接して進路左側を可成りの速度で進行していたことが認められる。大型ダンプの運転者である訴外平山としては見通し不十分なカーブの先から如何様の障碍が現われるかもわからない上に、対向車が左カーブのため物理的に道路中央部を越えて自己の進路に侵入して来る危険があることは容易に予測される筈であるし、殊に砂利を満載した大型ダンプは普通乗用自動車等に比して遙かに巨大堅固で事故発生の避譲能力等運動能力が鈍重であつて、いわゆる走る兇器として事故による打撃の相手に与える程度は極めて大きいのだから、十分に速度を落して徐行し、而も道路左側にできるだけ寄つて走行するべきであるのにも拘らず、漫然五〇キロメートルないし六〇キロメートルの速度(原告のダンプは衝突による抵抗にもかゝわらず、衝突地点から更に前方に約二〇メートルも訴外忠男の自動車を押しもどしながら道路下の窪地に突込んで漸く停止している点などからしても原告のダンプも相当速度を出していたものと推認される)で道路中央部分に接近して走行した過失が認められる。〔証拠略〕のうち叙上の認定に反する部分は他の諸証拠及び弁論の全趣旨に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
以上によると本件事故は訴外平山、同忠男の双方の過失の競合によつて生じたものであると言わざるを得ず、両者の過失による責任の割合は訴外平山が六、同忠男が四とするのが相当であると認められる。然るところ、原告が本件事故によつて被つた損害額は金四六万二、一四四円であり、被告らが責任を負うべき額はその一〇分の四であるからその金額は金一八万四、八五七円(一円未満切捨)となるところ、被告らにおいて原告に対し賠償支払をなすべき額は相続分に応じて二分すると夫々金九万二、四二八円(一円未満切捨)となる。原告は被告らに連帯支払を求めているが、分割債務と解するのが相当である。
被告らは訴外亡忠男の賠償義務は一身専属的なもので被告らの相続の対象にならないとか、被告らは被害者であるから賠償義務はないとか主張するが、誤解に基づくもので採用の限りでない。被告らは相殺、反訴などの攻撃方法をとることは格別右主張のみでは法律上何らの意味もない。
よつて原告の本訴請求は各被告に対し右金九万二、四二八円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和四二年九月一三日以降支払済迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるのでこれを認容することとし、その余の請求は失当として棄却し、民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文、第一九六条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 三井喜彦)